ロシアファッションヒストリーのブログです。前回はロシアの霊性シリーズ4回目として、スラブの絵柄をいくつか取り上げ説明いたしました。今回も絵柄について、その豊富な種類と語り継がれてきた意味を紹介していきます。
生命の木
そのシンボルは、宇宙、世界、それらの中心と軸を擬人化したものです。この大きな視点のシンボルは、家族が力強くて健康になるように、衣装に装飾されました。スラヴ人の意識の中で、生命の木の場所は、世界、土地、島、海の真ん中ににあります。また生命の木の枝が空に伸び、神々に届き、またその根は地下深くまで届き、悪魔の住む世界にも達することができます。
卍(まんじ、ロシア語でコロブラト)
全世界で知られている鍵十字はスラブ民族にも由来します。ロシア語では、コロブラト、またはソルスティスとも呼ばれますが、時代的には最も古く、かつ崇拝されている異教(キリスト教のものではないという意味で)のお守りです。回転を強く意識させるこの象徴は、家族の団結、その継続性を象徴する最も強力な力と考えられていました。卍には以下の多数のバージョンを見ることができます。
日本の卍のところは日本人の私が例を挙げておきます。浅草寺のものです。
卍の回転方向の違いは、夏(日本の卍)と冬(ナチの鍵十字)の太陽を表します。夏の卍は太陽に沿ったもので、明るい願望、創造的、エネルギーのシンボルであり、既存の課題を解決するエネルギーを表すダイナミックなものです。左利きの鍵十字(ナチの鍵十字の方向)には特段ネガティブな意味はなく、これは地上における勝利や、物事の本質、生物の本能という、より静的なものの象徴と考えられています。
菱形
幸福を運んでくる絵柄としてよく親しまれている絵柄です。下図のような櫛形の菱形は Орепей (オレペイ)と呼ばれ、リャザン地域でこの呼び名が発祥し、菱形の中でも最もポピュラーなバージョンです。他の地域では、オークやゴボウとして知られています。スラブの伝統の菱形自体には多くの解釈、農業、繁殖力、女性、太陽などの具体的な解釈もありますが、暗示的には「幸福が運ばれる」という共通のポジティブなものです。
多くの場合、ひし形は十字と関連させて編まれることが多いのですが、それでスラブ人はそれらのシンブルがが四方すべてに幸福と善を広めると信じていたからです。菱形は播種された畑としての象徴でもあり、これは繁栄、成功、富、活力の向上をもたらし、スラブの人々に自信と活力を与えてきました。
落雷
下の図のような絵柄は、雷、落雷、あるいは雷神(ペルン)と呼ばれてきました。昔は、男性だけがそれを使用でき、戦いの場でのみ装飾されるべきものと考えられてきました。この模様は、釼や、弓矢そして鎧などの武器に描かれていました。同時にこの雷の絵柄は女性のエネルギーに有害な影響を与えると考えられていました。ある時代、雷のシンボルは意味が変わり、これを施した装飾品は破壊的な落雷から身を守ると考えられるようになり、性別関係なしに服や家々に適用され始めました。多くの場合、門やドアなど家の顔となる部分にこのシンボルが看板のように飾られていました。
マコシュ(モコシ)
×印と4つの正方形からなる模様をマコシュと呼びます。マコシュとはスラブの神話における女神で、以下のような神話が語り継がれています。
偉大なスラブの女神マコシュは、すべての神々と人々を支配しています。女神マコシュは、世の中で行われる習慣と儀式が引き継がれることを、観察、監視します。この女神は伝統を尊重する人々を守ります。
また女神マコシュは人々の過去だけでなく、将来も見ています。その人が過去に誰であったか、そして次の人生の運命も知っています。同時に、善と悪のどちら側かを選択する権利を提供し、人が規則の法則に従うならば、彼女は慈悲を持ち、彼を守ります。悪の道を選ぶと、彼女は容赦なく彼を罰します。彼女は次の人生でその人を再生させますが、男性であれば女性に女性であれば男性に変えてしまいます。
こうした行為は彼女の小さな部屋で、運命の糸を織りながら行われます。
以下がマコシュをかたどったネックレスと型紙。
いかがでしたでしょうか、今回は5つの絵柄につき解説いたしました。
スラブ神話ではこうした絵柄がいくつもあり、単純な絵柄の中に壮大な神話、地球上の真理、人生の哲学などが内包されているのがとても興味深いです。
次回もいくつかの絵柄について紹介していきたいと思います。
参考資料
・Ornament_russkoy_narodnoy_vyshivki_Maslova
・Levacheva_T_A _-_ Pomorsky_traditsionny_kostyum
・Uzory_starinnogo_shitya_v_Rossii_1880g
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