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ゴーゴリ「隊長ブリバ」を読むためのイラスト ロシアファッションブログ170

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ゴーゴリ「隊長ブリバ」を読むためのイラスト ロシアファッションブログ170

ロシアファッションブログです。前回から、ロシア小説における各シーンをモチーフにイラストを取り上げています。我々日本人が20世紀初頭のロシア文学を読む際、その小説の時代背景、土地柄などを想像するには困難を極めますが、その際ロシア人が描く、各小説の重要な登場人物やシーンのイラストを参照することで小説の理解を高めてくれることと思います。

今回はゴーゴリ作「隊長ブリバ」を取り上げます。

小説抜粋の出典は、日本ブッククラブ発行、決定版ロシア文学全集 17 隊長ブリバほか 米川正夫訳 1971年11月30日発行 です。

まずは出だしの場面から。

「『ちょっと後ろを向いてみい。何というおかしな格好しているのだ。お前たちの身につけている坊さんの袈裟みたいなものは一体何だ。お前たちの学校ではみんなそういう服装をしているのか。』
こうした言葉を持って老タラスブルバは二人の息子を迎えた。彼らはキエフの宗教学校に官費生として学んでいた。そして今父の元へ帰省したのである。
彼らは馬から降りたばかりだった。二人ともがっしりとした体格の若者で、学校を卒業したばかりの神学生よろしく、まだ上目使いに相手を見る癖から抜けきっていない。頑丈な健康そうな顔は一度もカミソリの当てられない、生まれ落ちた時のままの柔らかな綿毛に覆われていた。彼らは父のこうした応対ぶりにひどく面食らってじっと目を地に落として立ち止まった。」

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

「客間はこの時代の好みによって飾られてあった。色粘土ですっかり塗られてあった。周囲の壁には長剣だの、ムチだの、鳥網だの、魚網だん、鉄砲だの、巧みに細工の施された水牛の角の火薬入れだの、金色に煌く馬のくつわだの、銀金具のついた馬の足かせなどがかかっていた。窓には小さく、今では古い教会でもなければ見られないような円形の曇りガラスがはまっていて、上げ下げのできるそのガラスを少し持ち上げなければ、戸外を見るわけに行かなかった。窓や扉の周囲には赤い羽目板がうってあった。隅々の戸棚にはいろんな水差し、緑色や水色のフラスコ彫刻の施された銀の大盃、3人も四人もの手を渡ってあらゆる手段方法によってブリバの客間へ収められたベネチア、トルコ、チュルケスなどの各地の産なる金ピカの杯などがずらりと並べてあった。部屋の刺繍に据え連ねられた白樺の皮の腰掛け。正面と続きの隅にある聖像の下の大テーブル、いろんな花模様のある五色の化粧瓦で覆われたでこぼこの壁や寝台装置をした大きな暖炉、すべてこれらの品々は毎年休暇になるとはるばると徒歩で帰省するのを常とした我等の親愛なる二人の若者には、いずれも馴染みの深いものだった。」
「タラスブリバは息子らの帰省したのを機会に、居合わせた連隊の士官達と百人隊の隊長連とを残らず呼んでこいと命じた。そしてそれらの中の二人と彼の古い同僚であるコサックの大ドミトロ・トフカッチがやってくると、彼は早速この三人にこう言いながら帰ってきた自分の息子を紹介した。『どうじゃ、ひとつ見てくだされ。なんと素晴らしい若者じゃろう。近々にセイチへやろうと思っている。」
客人らはをタラス・ブリバにも二人の息子にも喜びの言葉を述べて、それは誠に結構だ、若い者にとってはザヴォルジエのセイチへ行くに勝る修行はない、と答えた。
『さあそれじゃあ皆さんご随意にお好きな場所を選んで、どなたも食卓についてください。さあせがれたち何をおいてもまずグイッと一杯やろう』とタラス・ブリバは言った。」

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

 

弟のアンドリイは兄より幾分活発な、そして幾分発達した、諸々の感情の持ち主であった。」

「概してこの最近の2、3年、彼はどんな徒党の頭にもなることなど滅多になかった。がその代わり、桜の園の中へ消えてゆく、キエフの寂しいどこかの横町の、招くように往来を見ている低い家々の間を、一人とぼとぼ歩くようなことが、前よりもずっと多くなった。時々彼は貴族たちだけが住んでいる街区へも、つまり小、ロシアとポーランドの貴族だけが住んでいて、家々が偏ったある種の好みによって建てられている、今の『旧キエフ 』へも足を踏み入れた。ある日、この辺をぶらついていて、うっかり何かに見惚れていると、どこかのポーランド貴族の馬車がほとんど彼を轢きかけた。そして馭者台に陣取っていた厳めしい髭の生えた馭者が、かなりてひどくしたりと鞭で彼を打った。若い宗教学校生徒はカッとなった。彼はいきなり力強い手をのべて、凶暴な大胆さで馬車の後輪を掴んで引き止めた。が、仕返しをされた業者は馬に一鞭当てた。馬は一散に走り出した。そしていい塩梅に車輪を掴んでいた手を離すことができた。けれどもアンドリイは前のめりにばったり倒れて、泥の中へまともに鼻面を突っ込んだのである。猛烈な笑い声が一斉に窓際の頭上で破裂した。彼は瞳をもたげた。そして生まれてこの方一度も見たことのないような、優れた美人がつい目の前にいるのを発見した。」

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

 

「朝の光で起こされたこの奇跡を、アンドリイはこっちの暗い隅から眺めて驚嘆せずにはいられなかった。この時荘厳なオルガンの響きが、急に会堂の全部に充ちわたった。それはますます大きくなってゆき、広がってゆき、轟然たる雷鳴に代わってゆき、それから急に天井の楽の音に変わって、高く響き渡る少女の声を思い出させるその音色を、高く円天井の下に漲らせ、やがてまた太い唸りと雷鳴のような音響に代わって、そしてしんと静まった。しかもそれからしばらくの間、この雷鳴のような音響は円天井の下に震えながら鳴り続いていた。アンドリイは、半ば口を開け広げてこの荘厳な楽の音に驚嘆の目を瞠っていた。」

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

 

さて、次は一つのクライマのシーンです。

「オスタップはあらゆる責苦と拷問とを、巨人のように泰然と耐え忍んだ。手足の骨をボキボキと折り始めた時でさえも、恐ろしい音が遠くの見物の死んだようになっている胸に聞こえてきて、女どもが思わず目を背けた時でさえも、彼はただ一つの叫び声も、うめき声も立てなかった。うめき声に似たいかなる音響も彼の口からは出なかった。彼の顔はビクともしなかった。タラス・ブリバは俯いたり、同時にまた誇らしく瞳をもたげたりして群衆の中に立っていた。そしてただ一言褒め称えるような調子でこう言った。

『偉いぞせがれ。あっぱれだ。』と。

が、最後の断末魔の苦しみに引きずって行かれた時、怯えに怯えているオスタップの力が弱りかけていたように見えた。彼は瞳をもたげて自分の周囲を見回した。ああ、みんな見知らぬ顔ばかりだ。せめて近しい物語でも一人でも俺の末期に立ち会っていてくれたなら・・・彼は弱い母親のすすり泣きや悲嘆の声を聞こうとは願わなかったであろう。また、髪をかきむしり白い胸を叩いて嘆き悲しむ妻の狂おしい号泣をも聞くことを願わなかったであろう。彼は今、懸命な言葉で、自分に活気を与えてくれ、末期の自分を慰めてくれるに違いない、雄健な男を見たいと思ったであろう。で、彼は力尽きて、心の中の耐え難い気持ちに動かされて、思わず叫んだ。

『お父さんどこにおいでですか。お父さんはこの苦しみをご存知ですか。』

『知っているぞ』という声が水を打ったような静けさの中に響き渡った。百万の群衆は一時に震えがあった。

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

 

そして真のクライマックス、タラス・ブリバがポーランド兵に捕まって、火あぶりにされる直前のシーンです。

「この時、突然の疾走の真っ最中に、タラス・ブリバは馬を止めてこう叫んだ。

『待ってくれ、パイプを落とした。パイプ一つだってポーランドの敵の手に渡したくない。』

老隊長は身をかがめて、海上でも、陸地でも、遠征の際にも、家にいるときにも肌身離れぬ道連れだったそのパイプを草の間に探し始めた。が、ちょうどこの時、不意に敵の一隊が迫ってきた。そして彼の力強い両肩をむずと掴んだ。彼は全身を動かして振り払おうとしたが、もう彼にしがみついているポーランド兵どもは、今までのようにパラパラとふるい落とされはしなかった。

『ああ、老いたか。わしも老いたか。』

こう悲壮な声で言って、頑固な老コサックは男泣きに泣き出した。が、この場合年齢が悪いのではなかった。力が力に打ち勝ったのだ。彼の手や首にぶら下がっている人間は30人を下らなかったのである。

『とうとう大きな鳥をとっちめたぞ。』

とポーランドの兵士たちは叫んだ。

『もうこうなったら、このコサックのよぼ犬に、どういう素晴らしいご馳走を食わせたらいいかを考えるだけのことだぞ』

彼らは総司令官の赦しを受けて、彼を一同の面前で生きながら火あぶりにすることを決定した。」

 

出典:http://hallenna.narod.ru/gogol_bulba_ill.html

 

最後に隊長ブリバをテーマにした音楽の動画を紹介します。最初はヤナーチェク作曲のクラシック、次がワックスマン作曲の映画音楽です。

 

いかがでしたでしょうか?

次回もロシア文学のイラストシリーズは続きます。

Иллюстрации В.М.Васнецовак повести Гоголя "Тарас Бульба"
Иллюстрации В.М.Васнецова к повести Гоголя ''Тарас Бульба''

 

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