ナワルヌイ毒殺未遂事件に関するプーチン大統領の記者会見のロシア語解説

毎年年末プーチン大統領はその年の総括という意味で、ロシア国内外のメディア記者を集めて、3から4時間をかけての記者会見を行います。今年2020年は、12月17日にコロナの影響でリモートで行われましたが、プーチン大統領と各メディアの精鋭記者との丁々発止のやり取りはロシア語学習の格好の素材となります。

さて、表題のナワルヌイ毒殺未遂事件とは、プーチン大統領の政敵と考えられる政治家ナワルヌイ氏がロシア国内便の移動中に具合が悪くなり、緊急着陸し病院に運ばれたものの、ナワリヌイ氏の奥さんからの要求でドイツの病院に移送され、その後神経毒のノビチョク系薬物が死の体内から検出されたというものです。当然ナワルヌイ氏及び欧米政府はプーチン大統領の指示により行われた毒殺事件として、国際政治の大きなテーマとなっています。

17日の年末記者会見でもこのテーマが質問され、プーチン大統領は、この事件は米国の組織のでっち上げであり、ナワリヌイ氏が最初に収容されたロシアの病院では毒物は検出されておらず、またドイツや欧米諸国が毒殺未遂を主張するなら根拠を示すよう、あるいはロシアも共同で調査する準備を表明しました。

その質疑の中で、プーチン大統領は意味深な回答をしています。

以下は2020年12月17日付、ロシアのメディアRIA新聞社のWeb 版の記事です。

Президент РФ Владимир Путин, комментируя публикации о якобы причастных к “отравлению” Алексея Навального сотрудниках российских спецслужб, заявил, что “берлинский пациент” никому не нужен, чтобы его травить.Во время ежегодной пресс-конференции президенту задали вопрос о “расследовании”, в котором приводились якобы имена и фотографии сотрудников ФСБ, причастных к “отравлению” Навального.Президент назвал эти публикации не расследованием, а “легализацией работы американских спецслужб” и добавил, что это значит, что Навальный пользуется поддержкой спецслужб США.”А если это правильно, тогда это любопытно, тогда спецслужбы, конечно, должны за ним присматривать. Но это совсем не значит, что его травить нужно, кому он нужен-то?” – сказал Путин.”Если уж хотели, наверное, довели бы до конца. А так, жена (Навального – ред.) ко мне обратилась, я тут же дал команду выпустить его на лечение в Германию. В эту же секунду”, – пояснил президент. 出典:https://ria.ru/20201217/navalnyy-1589675501.html

全文の翻訳は省略しますが、太字までの概略は「ナワルヌイの毒殺未遂事件はアメリカの特別部隊のでっち上げに過ぎない。そしてナワルヌイがアメリカの特別サービスの支援を得ていたということを意味するので、ロシアの特殊部隊FSBは当然彼を監視するだろう。」となります。

そして、肝心の Если уж хотели, наверное, довели бы до конца. の訳は「もし彼ら(FSB)が(毒殺することを)望んでいたら、おそらくそれを終わらせていた(毒殺していた)でしょう。」となります。

文法的に説明すると、この文は現実と異なることを仮定しての仮定法が使われており、Если бы 過去形, бы 過去形 の形になっています。つまりプーチン大統領は、「FSBは毒殺を望んでいなかったし、試みなかった。」との意味を表現したわけですが、一方「望んでいたら、毒殺を完遂していた。」は、FSBは毒殺による暗殺をする組織である、ともとれるわけで、ロシアの政治にはこのオプションがあることをほのめかしてしまうことになります。

現に、この文言は西側のメディアにすぐに取り上げられ、それらを参照した日本の新聞社も引用しました。

https://mainichi.jp/articles/20201219/ddm/007/030/097000c

おそらくは、このプーチン大統領の一言は、今後何度も引用されるようになるかもしれませんので、このブログの読者の皆さんも覚えて損はない仮定法の例となるでしょう。

ただし、この場合は口語であったために、 Если бы 過去形 の正式なものから、 бы が抜けて уж が使われています。後の部分はしっかり бы +過去形の形が保持されていますので意味としては間違いはないのですが、口語では最初の бы が уж に交換可能であることにご留意ください。

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