日露バイリンガルの研究紹介5

前回に続いて、学位論文からの研究結果についてです。今回はバイリンガルのお子さんの第一言語、第二言語間の転移についてです。転移というのは、通常第二言語の学習に母語が影響することを総称して言いますが、プラスに働く場合を正の転移、マイナスに影響することを負の転移といいます。取り上げた論文では、言語間で影響しあうことを転移とし、より広義な意味でこの言葉が使用されています。

以下抜粋をご覧下さい。

本研究では、言語体の異なる異言語間においてもカミンズが提唱した2 言語間の相互依存関係はロシア語を第一言語にする子どもの場合でも、第二言語として学ぶ子どもには転移が見られた。例えば、2.0 世の日本語による読書時間と日本語において認知面を含むすべての得点の間と、ロシア語による読書時間は、表現、イントネーション、描写説明、語彙という項目において正の相関が確認された。2.5 世児にも、同様な結果がみられた。この点について実証的な研究になったが、すべての子ども、すべての言語領域に及ぶ研究成果ではない。しかし、全体的にみると、日本語の得点がより高く、ロシア語は5%水準で有意な相関を示す傾向が目立つ。これは中島(2013)、カミンズ・中島(2011:93)が予測した結果となる。第二言語から、第一言語への転移は、見られていないケースが少なくない。ただし、学校で母語を使って学ぶ機会があれば、学校言語で学んだ概念、言語リテラシーの力が母語に転移するとカミンズ・中島(2011)が指摘している。さらに、学校が効果的に母語を教え、母語のリテラシーも育つ環境であると、学校成績も上がる。相互依存の原則には、言語形態上の転移以外にも、いろいろな転移が含まれる。言語が置かれている社会的状況によるが、言語相互依存説で指導上もっとも大事なことは、異言語間の知識や技能の転移の促進をはっきり意図した指導が必要である[カミンズ・中島 2011:79]。

なお、本調査では、以下の領域で転移が見られた:概念的用要素の転移(たとえば、「担任先生」、「脱皮」、「熱帯」、「博士」、「温暖化」という概念の理解等)メタ認知ストラテジー、メタ言語ストラテジーの転移(記憶法、語彙学習ストラテジー,自己訂正・反省等)。

簡単に言えば、ロシア語を継承語として習得させるならば、日本語での学校教育をおろそかにしないこと、またロシア語での教科教育も合わせておこなえば、ロシア語の習得、日本語の習得、および学校の教科習得にも良い影響をあたえることが示唆される、ということでしょう。そして、このパートでのキーとなる点はやはり、「異言語間の知識や技能の転移の促進をはっきり意図した指導が必要」

であるとの指摘です。つまり、ロシア語・日本語のバイリンガルのお子さんの教育には両言語の特性を理解し、転移を促進させることが効果的ということです。

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