ロシアファッションブログの137回目、ロシアのお茶の歴史の3回目です。前回ロシアファッションブログ136「ロシアのお茶の歴史2」では、ロシアにおいてお茶がどのように供されていたかをご紹介しました。
今回は、ロシアの文化的要素が色濃く出たお茶道具とも言うべき、サマバールを特集します。
サマバール
干し草作りと僧侶 彫刻 1889年 イヴァン・ソコロフのコレクションから
子供用サモワール ピーター・パブロフスタジオの写真 1917年以前 イヴァン・ソコロフのコレクションから
サモワール 1917年以前 イヴァン・ソコロフのコレクションから
銀製のサマバールと女性 1917年以前 イヴァン・ソコロフのコレクションから
サマバール 1933年 イヴァン・ソコロフのコレクションから
お茶の時間 20世紀 イヴァン・ソコロフのコレクションから
現代のサマバールと構造的に類似した水を加熱するための容器は、古代中国と古代ギリシャの両方で知られていました。
中国の湯沸かし装置
出典:https://tani-y.livejournal.com/6848085.html
しかしサマバールが文化の象徴の1つになったのは、ロシアのみです。
最初の「茶器」は、海外からの新しいもの好きだった皇帝ピョートル 1 世の興味から、オランダからロシアに持ち込まれたものです。
ピョートル1世
出典:https://ru.wikipedia.org/wiki/%D0%A1%D0%BF%D0%B8%D1%81%D0%BE%D0%BA_%D0%B8%D0%BC%D0%BF%D0%B5%D1%80%D0%B0%D1%82%D0%BE%D1%80%D0%BE%D0%B2_%D0%A0%D0%BE%D1%81%D1%81%D0%B8%D0%B8#/media/%D0%A4%D0%B0%D0%B9%D0%BB:Peter_de_Grote.jpg
初期のロシアのサマバールは、18世紀半ばにウラルとトゥーラのデミドフ工場で作られました。
最初のサマバールは銅でできていて、その生産に特化した最初の工場は、1778 年に鍛冶屋の ヒョードル リシツイン によってトゥーラに開設されました。リシツィンのサマバールは、樽型、型押しと彫刻が施された花瓶型、卵型の胴体とループ型のハンドルなど、さまざまな種類と仕上げで有名になりました。サモワールの各形態には、「卵」、「ボール」、「ガラス」、「花瓶」、「カブ」というバリエーションが当初からありました。
出典:https://www.culture.ru/materials/76834/vodogreinaya-
mashina-ili-simvol-russkogo-byta#material_76852-1
トゥーラのサマバール博物館より
出典:https://www.culture.ru/institutes/10571/muzei-tulskie-samovary
歴史的には、ロシアのサマバール самовар には多くの名前がありました。ウラジーミル・イワノビッチ・ダールの辞書には、 «самоварец» サモバレッツや «самодур»サモドウール「暴君」という呼び名についても言及されています。ヤロスラヴリの人々は «самогар»サモガーと呼び、ヴィアトカンで«самогре»は「サモグレイ」と呼び、クルスクの住民は«самокипц»サモキペットと呼んでいまし
た。
トゥーラのサマバール博物館より
出典:https://www.culture.ru/institutes/10571/muzei-tulskie-samovary
歴史的背景においての視点を民間におくと、こうした茶器の革新がどのように異なって扱われたかは興味深いです。サマバールを「奇跡」と見なす人もいれば、ネガティブに「悪魔」のように考える人もいました。
出典;https://tani-y.livejournal.com/6848085.html
次のようなサマバールに関する詩があります。
真っ赤な悪魔がテーブルに登った。
それは、あたまに水を貯え、腹には火を貯え、
そして4本の足、2つの耳、1つの鼻を持っている
ロシアにおけるサマバールの価値
ロシアのサマバールの全盛期は、18 世紀の終わりと 19 世紀です。それまで、お茶もサマバールも高価で、買うことができるのは非常に裕福な人だけでした。商人が納税の際、有するサマバールがどう評価されたかの記録があります。当時サマバール一つが4 ルーブル 80 コペイカしていましたが、比較として住居となるそこそこ質のいい小屋が 10 ルーブルで、20 ルーブルもだせば立派な家を買うことができます。また牛 1 頭あたり 最低でも2.50 ルーブルした時代のことです。
時間が経つにつれて、サマバールは工場で大量生産され始め、サマバールのコストが削減され、お茶はより手頃な価格になりました。小金を持つ人が喜んでサマバールを購入し、またサマバールが居酒屋にも登場するようになり、こうした「手ごろなサマバール」も人気を博すようになりました。
ロシア文学/芸術への浸透
大量生産により、サマバールは一般家庭にもどんどんと普及しました。そして、単に便利という側面から浸透していったわけではなく サマバールは国民生活の文化の一端を担うようになりました。
ロシアの詩人ボリス・サドフスカヤは、詩集「サマバール」の序文で次のように書いています。
私たちの生活の中でサマバールは無意識のうち、大きな場所を占めています。純粋なロシア的現象であり、これは外国人の理解を超えています。サマバールのハミングとささやきに。ロシア人は子供の頃から聴きなれた声を思い浮かべます: 春風の溜息、母親の親愛なる歌、村の吹雪の陽気な笛音。これらの音は、ヨーロッパの都市のカフェでは聞こえません。
このように、サマバールは人々の文化の一部になりました。プーシキンとゴーゴリ、そしてゴーリキーもサマバールについての著述を多く残しています。
さらに多くの、芸術家がサマバールをテーマに作品を残しています。
まずは、ボリス・ミハイロヴィッチ・クストーディエフ (1878 – 1927)の作品です。
出典:https://rusmuseumvrm.ru/data/events/2018/04/samovar_v_tvorchestve_russkih_hudozhnikov/index.php?lang=en
出典:https://rusmuseumvrm.ru/data/events/2018/04/samovar_v_tvorchestve_russkih_hudozhnikov/index.php?lang=en
出典:https://rusmuseumvrm.ru/data/events/2018/04/samovar_v_tvorchestve_russkih_hudozhnikov/index.php?lang=en
次に1976年生まれのエフゲニー・ムコブニンの作品から:
出典:https://evg-crystal.ru/kartiny/evgenij-mukovnin-kartiny.html
そして1959年オムスク生まれのウラジミール・ズダノフの作品から、こちらはたくさんあります。:
出典;https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典:https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
出典;https://ja.newmediator.org/2708-vladimir-zhdanov-1959-siberian-landscape-painter.html
サマバールでいれたお茶の味
ロシアのサマバールはとてもメロディアスな存在です。最初は繊細に優しく歌い、やがて冬の吹雪のような音を立て、春の小川のように沸きます。そして、こうした演出は偶然ではなく、いわゆる 本物のサマバールは、必ず歌えるように (胴の形で) 設計され作られるのです。
出典:https://samovaryrossii.ru/%D1%80%D0%B0%D1%81%D1%82%D0%BE%D0%BF%D0%BA%D0%B0-%D0%B6%D0%B0%D1%80%D0%BE%D0%B2%D0%BE%D0%B3%D0%BE-%D1%81%D0%B0%D0%BC%D0%BE%D0%B2%D0%B0%D1%80%D0%B0/
サマバールで沸かしたお湯で入れたお茶は、電気湯沸かし器で沸かしたお湯からのお茶と比べることはできません。サマバールは、水の硬度を効果的に下げる本物の化学反応器と言ってもいいものです。実際のサマバールでは、不溶性の炭酸塩がより多く底に沈み(したがって、サマバールには底の少し上に蛇口があります)ます。したがって、お茶が信じられないほど美味しくなるのです。
今回はこれまで、サマバールについてのお話でした。
次回も「ロシアのお茶の歴史」は続きます。
参考資料
・https://www.culture.ru/materials/76834/vodogreinaya-mashina-ili-simvol-russkogo-byta
・https://tani-y.livejournal.com/6848085.html
・https://evg-crystal.ru/kartiny/evgenij-mukovnin-kartiny.html
・
Самовар в творчестве русских художников
В медиалектории ЦРБ Чехова состоялась лекция, посвященная образу самовара в творчестве русских художников. Лектор - А. Юнусова.
・https://www.tea-terra.ru/2014/02/27/14095/
・https://vash.market/bytovaya-tehnika/melkaya-tehnika-dlya-kuhni/razogrev-vody/samovar.html
・https://samovaryrossii.ru/%D1%80%D0%B0%D1%81%D1%82%D0%BE%D0%BF%D0%BA%D0%B0-%D0%B6%D0%B0%D1%80%D0%BE%D0%B2%D0%BE%D0%B3%D0%BE-%D1%81%D0%B0%D0%BC%D0%BE%D0%B2%D0%B0%D1%80%D0%B0/
・https://arzamas.academy/materials/2229
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